電気主任技術者として独立する最短ルート。実務経験の積み方から開業準備まで、全体の流れを整理
「電験は取った。いつかは独立したい。でも、何から手をつければいいのか分からない」
YouTube「電気保安の学校」には、こういう声が本当にたくさん届きます。
私は電気保安協会に20年勤めたあと、独立しました。正直に言うと、私の独立は「最短ルート」とはほど遠いものでした。準備らしい準備をせずに辞めてしまい、半年間、収入ゼロ。退職金でなんとか食いつなぎました。
この記事では、私の失敗も含めて、電気主任技術者として独立するまでの道のりを最初から最後まで整理します。制度の部分は、2026年10月時点の経済産業省の資料で確認しています。
結論:独立までは、この4つのステップ
まず全体像です。
| ステップ | やること | 目安の期間 |
|---|---|---|
| ① 免状 | 電験三種(できれば二種)の免状を受ける | ― |
| ② 実務経験 | 外部委託を受けるのに必要な年数を積み、監督部の確認を受ける | 最短1年〜5年 |
| ③ 開業準備 | 事業計画・資金・測定器・人脈・社内の手続き | 退職前の6か月〜1年 |
| ④ 開業 | お客様と委託契約を結び、お客様が監督部の承認を受ける | ― |
いちばん時間がかかり、いちばん人によって差が出るのが②の実務経験です。最短ルートを考えるということは、ほぼ「実務経験をどう積むか」を考えることだと言っていいと思います。
ステップ②:実務経験は、いま何年必要か
独立した電気主任技術者は、法律上は「電気管理技術者」と呼ばれます。お客様の電気設備の保安を、外部から委託を受けて担う立場です。
この仕事を受けるには、免状に加えて、一定の年数の実務経験が必要です。告示で決まっている年数は次のとおりです。
| 免状と講習・訓練 | 通常 | 小規模設備のみ受託する場合 |
|---|---|---|
| 第三種のみ | 5年 | 4年 |
| 第二種のみ | 4年 | 3年 |
| 第一種のみ | 3年 | 2年 |
| 第二種・第三種 + 保安管理業務講習 | 3年 | 2年 |
| 第二種・第三種 + 講習 + 保安管理業務訓練 | 2年 | 1年 |
「小規模設備」は、300kVA以下・キュービクル式・PF・S形の3つの条件をすべて満たす需要設備です。講習と訓練は、免状の交付を受けた後に修了したものが対象になります。
この年数がここまで短くなった経緯(2024年の3つの改正)は、別の記事で詳しくまとめています。
実務経験を積む3つのルート
年数が短くなっても、「どこで積むか」という問題は残ります。私が考える現実的なルートは3つです。
ルート1:独立した電気管理技術者の補助者になる
2024年4月から、電気管理技術者や保安業務従事者の補助者として点検した場合は、設備21件の点検で1か月分と数えるようになりました。21件に届かない月は、同じように届かなかった月と合わせて数えられます。
会社員を続けながら、休みの日に点検に同行する。そういう積み方が制度として認められています。
ただ、動画でもお話ししたとおり、月21件を会社員のまま続けるのは、正直かなり大変です。休日がほぼ点検で埋まりますし、受け入れてくれる電気管理技術者を見つけるところから始めなければなりません。
ルート2:保安法人に就職する
保安協会や保安法人に入り、保安業務従事者として経験を積む方法です。毎日現場に出られるので、経験の中身は濃くなります。
一方で、「そもそも採用されるか」「何年かかってから独立を言い出せるか」は、自分では決められません。独立の計画が立てにくいのが、このルートの弱点です。
ルート3:電験二種を取って、太陽光発電所に選任される
動画でいちばん反響が大きかったのが、このルートです。
選任された電気主任技術者として働いた期間は、その選任されていた期間がそのまま実務経験として数えられます(点検などに日常的・継続的に従事していることが前提です)。つまり、どこかに選任されれば、仕事として収入を得ながら、確実に実務経験を積めます。
そこで狙い目になるのが、特別高圧で連系する大きな太陽光発電所です。理由は3つあります。
- 外部委託ができない:外部委託が認められる太陽電池発電所は、出力5,000kW未満で7,000V以下で連系するものなどに限られます。それより大きな発電所は、電気主任技術者を選任しなければなりません
- 第三種では範囲が足りないことが多い:第三種が監督できるのは5万V未満で、出力5,000kW以上の発電所は除かれます。第二種は17万V未満まで監督できます
- 設備の構成が比較的シンプル:どんなに大きなメガソーラーでも、基本はパネル・パワーコンディショナー・受変電設備です。工場のようにさまざまな負荷があるわけではないので、未経験からでも点検を覚えやすいと感じています
実際に、HIKARIでは65歳で電験二種を持っている方にマンツーマンで点検をお伝えし、いまでは太陽光発電所の点検をしっかり任せています。仕事量も体力的に無理のない範囲なので、年齢を重ねた方でも続けやすい仕事です。
また、いま第二種で太陽光発電所に選任されている方には、定年後に選任された年配の方が多いと感じています。私のところにも「二種を持っていて、太陽光に選任できる人はいないか」という問い合わせが届いています。
動画を出したときから変わったこと
この動画を撮った2024年の時点では、第二種の方は第三種より実務経験の年数が短く、「二種なら早く独立できる」という面もありました。
その後、2024年11月に保安管理業務訓練が始まり、**講習と訓練を修了すれば、第二種も第三種も同じ「2年」**になりました。年数だけで見れば、二種の有利さは小さくなっています。
それでも私がこのルートをすすめるのは、電験二種は自分の努力で取れるけれど、実務経験を積める場所は自分の努力だけではどうにもならないからです。二種があれば、選任という形で「経験を積める場所」を自分でつかみに行けます。
なお、選任の形(雇用や契約のしかた)には決まりがあります。具体的に話が進んだら、発電所を管轄する産業保安監督部に事前に相談してください。
ステップ③:退職前の6か月〜1年でやる準備
実務経験のめどが立ったら、いよいよ独立の準備です。準備期間は6か月〜1年をおすすめします。短すぎると私のように準備不足になり、長すぎると気持ちがぶれてしまいます。
① 事業計画を紙に書く
いちばん時間をかけてほしいのがここです。
- 生活していくのに、月にいくら稼ぐ必要があるか
- お客様にどんなサービスを提供できるか
- 近くに同じ仕事をしている電気管理技術者や保安法人はどこにあるか
- お客様になりうる設備は、どの地域にどれくらいあるか
頭の中で考えるだけでなく、紙に書くことが大事です。
② 資金を用意する
私の目安では、開業資金として最低70万円は手元に置いておきたいところです(動画を撮った時点の私の感覚です。測定器を譲ってもらえるなら、もっと抑えられます)。これとは別に、収入が安定するまでの生活費も必要です。
測定器は、国の告示で持っていなければならないものが決まっています。
- 絶縁抵抗計、電流計、電圧計、低圧検電器、高圧検電器、接地抵抗計
- 継電器試験装置、絶縁耐力試験装置
需要設備などの保安管理業務だけを受ける場合は、騒音計・振動計・回転計は不要です。また、継電器試験装置と絶縁耐力試験装置は、必要なときに使える措置(借りられる手配など)がとれていれば、自分で持っていなくてもよいことになっています。
開業資金の詳しい中身は、別の記事でまとめる予定です。
③ 人とのつながりを作っておく
会社員のうちは、ほとんど社内の人としか会いません。独立したら、仕事は外から来ます。
- 近くの電気管理技術者や保安法人に会いに行く
- 電気工事店さんに「独立します」とあいさつしておく
- 入会を考えている団体があれば、説明会に行っておく
- 別の業種で独立した人の話を聞きに行く
④ 社内の手続きは、必要な分だけ早めに
引き継ぎや有給休暇の消化はもちろん大事です。そのうえで、実務経歴証明書は在職中にもらっておくことを強くおすすめします。辞めてからお願いするより、ずっとスムーズです。
私の失敗:社内のことばかり考えていた
私が独立を決めたのは、退職の約半年前でした。上司に伝えて、気持ちだけで辞めてしまった、というのが正直なところです。
6月末に独立したものの、地域の電気管理技術者の団体に入るまでに2か月かかりました。入ってからも、すぐに仕事があるわけではありません。結局、半年間は収入ゼロ。妻と4人の子どもは、ひやひやしながら見ていたと思います。
振り返ると、準備期間の大半を「上司に何と言われるか」「同僚にどう伝えるか」「自分が辞めたら現場が回らなくなるのでは」と、社内のことばかり考えて使っていました。
でも、会社は一人が辞めたくらいで回らなくなることはありません。その時間を、一人になったときにどうやって食べていくかを考えることに使うべきでした。
周りからは「会社にいれば営業しなくても給料が出る」「ケガをしても休める」と、いろいろ言われると思います。それも一つの真実です。でも、独立したい気持ちがあるなら、周りの意見はほどほどに聞いて、自分の目標を紙に書いて目指してほしいと思います。
ステップ④:開業したら知っておきたい「2時間」と「33点」
お客様と委託契約を結んだら、お客様(設置者)が所轄の産業保安監督部に「保安管理業務外部委託承認申請」を出し、承認を受けます。このとき、委託を受ける側にも決まりがあります。代表的なものが2つです。
2時間ルール
電気管理技術者の主な連絡場所から、お客様の事業場に2時間以内に到達できることが求められます。何かあったときに駆けつけるためのルールです。だから、仕事のエリアは自然と自分の拠点の周りに決まります。
33点ルール
一人で受け持てる量にも上限があります。設備ごとに決められた「換算係数」を合計して、33未満でなければなりません。たとえば高圧の需要設備なら、次のような係数です。
| 設備 | 換算係数 |
|---|---|
| 低圧の需要設備 | 0.3 |
| 高圧・64kVA以上150kVA未満 | 0.6 |
| 高圧・150kVA以上350kVA未満 | 0.8 |
| 高圧・350kVA以上550kVA未満 | 1.0 |
条件を満たして点検が3か月に1回になる設備などでは、係数が小さくなる決まりもあります。上限いっぱいまで持つことより、一件一件をきちんと見られる数で止めることを私は大事にしています。
最短ルートを走り切るための、3つのコツ
独立までの道のりは、短くなったとはいえ数年がかりです。最後に、私がコツコツ続けてこられた理由を3つお伝えします。
- 毎日の楽しみを作る:私は朝3時、4時に起きますが、起きてすぐ好きなことをする時間を作っています。楽しみがあるから、そのあと仕事に向かえます
- ワクワクする目標を、見える所に貼る:目の前の仕事に追われると、目標はすぐに忘れます。だから紙に書いて、部屋の見える所に貼っています。人に言われた目標ではなく、自分の目標であることが大事です
- 間違いのない人から学ぶ:やり方が間違っていると、2年、3年積み上げても、思っていた場所とは違う所に着いてしまいます。厳しくても、最後に自分のためになることを教えてくれる人から学んでください
年数が短くなった今こそ、期間の長さより、目的を持って取り組むかどうかで差がつきます。
動画でも詳しく解説しています
独立のルートや準備のことは、YouTube「電気保安の学校」でもお話ししています。
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参考にした公的資料
- 電気事業法施行規則 第52条(外部委託できる事業場)、第52条の2(委託を受ける者の要件)、第53条(外部委託承認の申請)、第56条(免状の種類による監督の範囲)(e-Gov法令検索)
- 経済産業省「電気事業法施行規則第五十二条の二第一号ロの要件等に関する告示」第1条(実務経験の期間)、第2条(機械器具)、第3条(換算係数)(令和8年経済産業省告示第127号による改正後)
- 経済産業省「告示第一条の事業用電気工作物の工事、維持又は運用に関する実務に従事した期間の確認に係る運用について」(2024年4月1日施行・2024年11月15日改正)
- 経済産業省「主任技術者制度の解釈及び運用(内規)」4.(9)(事業場への到達時間)
- 経済産業省「主任技術者制度に関するQ&A」(令和8年10月版)
この記事は2026年10月時点の情報です。申請・判断の前に、所轄の産業保安監督部で最新の内容を確認してください。
独立は、一人で走るものではありません。迷ったら、先に走った人に聞いてください。私もその一人でありたいと思っています。
株式会社電気保安HIKARI 代表 江嵜祐二
この記事を書いた人:電気保安HIKARI


